トラマドール

がんの痛みの治療に使われているオピオイド系鎮痛剤

トラマドールは、主にがんなどによる痛みの治療に用いられる鎮痛薬です。

 

鎮痛薬にはいろいろな種類がありますが、この薬はその中でもオピオイド系というものに分類される鎮痛薬です。

 

オピオイドというのはあまり聞いたことがないかもしれませんが、要はけし、アヘンのことであり、けしやアヘンに含まれる成分と化学的にみて類似の構造を持っている成分が、オピオイド系と呼ばれているのです。

 

けしやアヘンといえば、あまり薬などには詳しくない人でも、麻薬ということくらいは思い当たるでしょう。全くそのとおりで、けしと麻薬の歴史は人類の歴史と同じくらい古く、紀元前のメソポタミア文明やエジプト文明でもけしが栽培されていたと思われる記録が残っています。

 

ただし、このころは麻薬的な使い方をされていたのではなく、鎮痛薬、睡眠薬としての使用がメインであったと思われています。

 

アヘンとはまさにけしの実から採取される、未精製の、あるいは十分に精製されていない液体状又は半固形状の物質で、ここに有効成分が含まれています。現在では完全にその化学構造が分かっており、それはモルヒネと呼ばれています。

 

ちなみにアヘンという名称は中国語の阿片からきています。

 

阿片は中国語ではアーピエンと読みますが、これはけしの英語名であるopiumの音をそのまま当てたものであり、結局のところ英語名と日本語名とはつながりがあるわけです。

 

もちろんオピオイドという名前はこのopiumから来ています。

 

ところでアヘンと中国といえば歴史上忘れてはならない出来事があります。

 

19世紀半ばに清とイギリスとの間で起こったアヘン戦争がそうです。当時、イギリスは中国から絹、陶磁器などを大量に輸入していました。
また茶もその輸入品の一種で、イギリスといえば紅茶、紅茶は昔からイギリスの特産物と思われているかもしれませんが、実はそうではなく、中国から茶を輸入することで紅茶の習慣が広まったのです。

 

それはともかく、物を輸入するにはお金がかかります。

 

あるいは何か別のものを輸出して代金を相殺する必要があります。

 

イギリスには十分なお金も、輸出に適した品物もありませんでした。

 

そこで考えたのが、当時イギリスの植民地であったインドでけしを栽培してアヘンを作り、それを中国に輸出することでした。

 

今から考えると全くもってひどい話です。

 

というのも、既にこのころはアヘンは麻薬であることが十分に認識されていたからです。

 

アヘンが麻薬であること、それが大量にイギリスから入ってきていることを認識した清は、当然ながら国家としてそれを看過することはできず、アヘンの輸入を禁止します。

 

ではそれに対してイギリスは自分の非を認め、引き下がったのでしょうか。

 

いくばくかの賠償金か補償金でも支払ったのでしょうか。事実は全くの逆です。

 

非を認めるどころか、輸入禁止措置が取られたことを逆恨みして戦争を起こしたのです。

 

いったい正義はどこにあるのかという気がするのですが、清とイギリスとでは軍事力が違いすぎました。

 

2年あまりの戦いの後、戦争はイギリスの勝利に終わるのです。

 

このように、けしの麻薬の関係は、国家間の戦争さえ引き起こすほど、切っても切れないものなのです。

 

現在使われているオピオイド系鎮痛剤でも、多かれ少なかれ麻薬としての作用があります。トラマドールもそうです。

 

もちろん、化学者たちはオピオイドの研究を進め、できるだけ鎮痛効果はそのままに、あるいはより高くして、逆に麻薬としての作用はあまり持たないような化合物ができないか、考えられてきました。

 

少なくともトラマドールは、けしに含まれるモルヒネと比較すると麻薬としての作用は軽減されており、それだけ安心して使うことができます。

トラマドール